Don’t throw the baby out with the bathwater:赤ちゃんと牛の角

ごくまれにではありますが、通訳中の通訳に話しかけてくるお客様がいらっしゃいます。たとえば、難しい言葉や格言を使っておいて、「いまの、分かる?」みたいな。分かんないかもな。とか思うなら、使わないでくれるとうれしいです。

むかしむかし。こんなことがありました。

「あ、通訳さん、いまの分かった? 角を撓(たわ)めて牛を殺す。このことわざ、意味分かる?」

お気遣いはありがたいのですが、ことわざ程度なら心配ご無用です。

「だいじょうぶですよ。問題ありません。どうぞ続けてください」

みたいな感じで会議は進行し。

そして無事に終了しました。

このケースのように、普通の会話でも講演でもインタビューでも、通訳をしているとけっこう高い頻度でことわざに出くわします。通訳者の多くは日頃から、こういう場合に備えて有名な格言やビジネスでよく使われることわざを日英セットで仕込んでおきます。

もちろん、日本語でことわざが使われたからと言って、必ずしもそれを意味の近い英語のことわざに置き換える必要はありません。英語から日本語への通訳や翻訳でも同じです。

たとえば、角を撓めて牛を殺す。牛の角がちょっと曲がっているからと言って、それを無理に伸ばしたら、牛は弱って死んでしまう。「わずかな欠点を直そうとしてかえって全体をだめにしてしまう」こともあるんだよという格言です。

これに相当する英語のことわざに覚えがないときは、「わずかな欠点を直そうとしてかえって全体をだめにするのはよくない」と訳してもまったく問題ありません。たとえば、こんな感じ。

You don’t want to ruin the whole by trying to correct a small fault.

ちなみに、冒頭に述べたケースでは、こちらのことわざを使って通訳しました。

Don’t throw the baby out with the bathwater.

赤ちゃんを沐浴させた後、汚れた湯水を捨てようとして赤ちゃんまでいっしょに捨ててはいけない。「不要なものを捨てようとして、大事なものまで捨てないようにね」と言いたいときに使うことわざです。

「角を撓めて」と100パーセント一致することわざではありませんが、文脈的に置き換え可能なケースもけっこうあるので、セットで覚えておくと有用です。

それではこのへんで。ごきげんよう。

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